コーヒー豆は古くなると酸っぱい味がしますよね。これはコーヒー豆の成分が酸化する為に起きています。しかし味が劣化する原因があるのであれば解決方法もあるはず。というわけでコーヒー豆をなんとか救済できないか、化学的な視点を交えて検証していきたいと思います。今回はベーキングパウダーを混ぜることにより、古い豆の味を改善できるか実際に実験しながら検証していきます。ベーキングパウダーを混ぜる理由は酸化したコーヒーをアルカリ(ベーキングパウダー)で中和する事が目的です。詳しくは以下の記事で説明していますので確認してみてくださいね。
実験方法
実験は以下の予備実験と本実験をそれぞれ下記の手順で行いました。
■予備実験(ベーキングパウダーのpHを確認)
- 水100ccのpH、TDSを測定
- 水100ccにベーキングパウダー1gを溶かしてpH、TDSを測定
食用のベーキングパウダーには重曹(炭酸水素ナトリウム)だけでなく、クエン酸や酒石酸等の中和剤が混ぜてあります。
これにより水に溶かしたベーキングパウダーが狙い通りにアルカリ性を示すかわからなかった為、実際に水に溶かしてpHを測定しました。
■本実験
- 豆20gをザルの上で量り取る
- コーヒー豆を中挽きで挽き、ドリッパーへセット
- ベーキングパウダーをコーヒーの粉の上に「小さじ1/2」だけふりかける(添加する)
- 下記の条件でコーヒーを入れる
※ドリップ条件はハリオV60(02)ドリッパー、豆20g、湯温86度、蒸らし30秒、湯量200cc - pH、TDS、味を確認してコーヒーを評価する。
※pH(ペーハー)は水素イオン指数で酸の強さを表す指標です。
※TDS(総溶解固形物)は抽出液の濃度を表す指標です。
今回も豆は料理用のクッキングスケールで量り取りました。
※ちなみにコーヒースケールといえばAcaiaですが、これについて気になる方は下記からご覧ください。
コーヒーミル(手動ミル)でグラインドし、ドリッパーに粉をセットします。
ベーキングパウダーを上からふりかけた写真が下記です。(なんかあやしい。。。)
さて、ここからドリップ開始です。
ドリップの際には推測通りシュワシュワっとNaHCO3(炭酸水素ナトリウム)が分解し、CO2(二酸化炭素)が抜ける様子が見られました。(下記。分かり難いですが。。。)
あとは抽出が完了後にpH、TDSを測定し、味を確認して完了です。
実験結果
■予備実験結果(ベーキングパウダー水溶液のpH)
いきなりですが、仮説どおりには行きませんでした。。。(下記の表が結果です。)
ベーキングパウダーを入れた水を測定しても、pHが中性の7くらいの値となっているのがわかります。
ここまでの結果を見ると「アルカリによる中和する」という仮説通りにはならなそうです。
■本実験
下記に検証データ(pH、TDS)をグラフ化したものを添付します。
今回は下記のグラフの中の「Normal」と「BP」を見ていきましょう。
Normalが通常の何もせずに入れたコーヒー、BPがベーキングパウダーを添加したコーヒーです。
おどろいたことにpHの値を見ると、予想に反して通常の豆で入れたコーヒー(Normal)に比べ、ベーキングパウダーを添加したコーヒー(BP)のpHが高くなっでいます。
また、TDSを見るとNormalはバラツキは大きいものの、BPはNormalに比べてややTDSが高いように見えます。
NormalとBPで味を比べると、Normalは古い豆特有のえぐ味を伴うような酸味を感じたのに対して、BPは全く酸味を感じませんでした。
また、酸味を感じないだけでなく、味の質そのものが変わったように感じました。(正直美味しくないです。。。)
考察
■考察
ベーキングパウダーを添加してコーヒーを入れると、pHが高くなったことから何かしらの原因で酸が中和されたと考えられます。(何かってなんだよ!・・・以下でちゃんと考察します。)
TDSの値を見てみると、ベーキングパウダーを添加したものはTDSが高くなっているので、ベーキングパウダーを入れたことで何かしらの成分が追加されていることは間違いなさそうです。
では、何が原因だったのか?
結論はベーキングパウダーを混ぜることにより水に溶けている脂肪酸(酸っぱい成分)が減ったのでは?
ということです。(あくまで推測です。)
何でそう考えたかと言うところですが、ここからは少し深い話になりますので、興味がある方は御覧ください。
■上記の理由
まず、「酸っぱい」とはどういう事なのかおさらいしましょう。
酸っぱいとは、コーヒーに含まれる成分が水に溶けた(イオン化した)結果、水素イオン(H+)がコーヒーの成分から放出された状態であり、その結果としてpHが上昇していると考えられます。
つまり、コーヒーの成分が溶けなければ(イオン化しなければ)、pHは上昇しないし酸っぱくもならないと考えられます。
そこで今度は脂肪酸の特性についてもう少し調べて見ました。
脂肪酸は炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムと反応して脂肪酸塩を生成します。
この脂肪酸塩は水と油の両方に溶けやすい性質を持っています。(界面活性剤というやつですね。)
脂肪酸塩が油(または脂肪酸)と結合すると水に溶けやすい部分を外側に持ったミセルという小さな塊が形成され、その状態で水の中に分散(イオン化はしていない)します。
つまり、脂肪酸が水に溶けるのではなく分散することにより、H+を放出されず酸っぱくなくなった(pHが上昇した)のではないかと考えられます。
本格的な分析を実施したわけではないので、正直本当にそうなのかと言われるとわかりませんが。
いろいろと調べて机上で考察するとこんな所かなと思いました。
ベーキングパウダーによる豆の復活は実用的か?
いろいろとウンチクを述べて来ましたが、結論は「実用的でない」です。
前回の水で洗浄する方法に引き続き不甲斐ない結論ですが、嘘はつけませんので。。。
実用的でない何よりの理由は、シンプルに「美味しくない」からです。
酸味が全くなく、更にナトリウム塩の塩味も加わってしまい、コーヒー豆を復活するどころかコーヒーの味を落とす結果となってしまいました。
実験は失敗しましたが、いろいろコーヒーに付いて考えを深めることができたので良しとしましょう。
(前向き笑)
次回はコーヒー豆の加熱を利用した豆の復活方法に関する実験結果と考察を記事にしたいと思いますので、そちらについても是非見てみてくださいね。
それではまた。
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